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バイアグラ久しぶり(2010/05/09)

C先生:やぁ、久しぶりですな。

A君:最近は結構な頻度で更新してましたね。

Bさん:今日は?

C先生:久しぶりにバイアグラをやりましょう。
Viagra tablets

A君:前回一酸化窒素まで辿り着いた気がしますが。

C先生:そうだ。どこから参りましょうかね。
Sildenafil

A君:今回は逆から行きましょうか。SildenafilはPDE5の阻害剤です。

Bさん:PDE5はphosphodiesterase type 5と呼ばれています。ホスホジエステル結合を分解する酵素の一種ですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/PDE5_inhibitor

ただし、なぜか慣例と言いますか、通常ホスホジエステラーゼは環状のホスホジエステラーゼの分解酵素のことを指すようですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Phosphodiesterase

C先生:不思議だね。cGMPやcAMPがそれだけ重要なセカンドメッセンジャーだということかな。
cGMP & cAMP

Bさん:そしてそのPDEも1から11までのファミリーがいるようですね。

C先生:大家族だ。

Bさん:その中でもPDE5はcorpus cavernosum(海綿体)とretina(網膜)に主に分布するそうです。正確にはcGMP specific PDE type5、通称PDE5です。
http://en.wikipedia.org/wiki/CGMP_specific_phosphodiesterase_type_5

C先生:ある特定の臓器に特異的に分布しているというのは非常に重要だね。臓器選択性を出すことが可能だから。

A君:PDE5はcGMP特異的な酵素のようですね。cAMPは分解しないようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/PDE5_drug_design

C先生:なるほど。ではcGMPがどのような働きをしているか調べてください。
Bさん:SildenafilのMOAから、無理やり繋げてみましょう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sildenafil

SildenafilがPDE5をブロックする→cGMPが分解されない→海綿体膨張
でしょうか。

C先生:なんか無理のあるMOAだな。A君、よろしく。

A君:まず勃起の生理学的過程は、性的興奮→海綿体(corpus cavernosum)の血管(vasculature)中のNO濃度の上昇→NOがguanylate cyclaseを活性化→cGMPの濃度上昇→海綿体の血管にある平滑筋(smooth muscle)の緩和→血流の上昇→勃起(ecretion)
という感じですかね。

C先生:NOとSildenafilは別の酵素に対して作用しているということか。結構複雑だね。しかし、まぁ、こんだけ複雑な人間の生理に対して、よくSildenafilは選択的に勃起を起こさせるものだ。

Bさん:PDE5が陰茎の海綿体に選択的に存在しているというのも大きいのでは?

C先生:そうだねぇ。その事実が、Sildenafilが開発された過程のどの時点で明らかだったのか非常に興味があるね。どこまで開発者達は見えていたのだろうか・・・針の穴を通すような作用機作に感じるが。

A君:まぁ、麻雀と同じで通ってしまえば、ということでしょうかね。とはいえ、針の穴を完全に通らない場合もありますし、その時は副作用という結果になりますよね。難しいですよね。

C先生:まぁいいでしょう。ちょっとまとめましょう。
Mode of action of Sildenafil

Bさん:この図を見ますと、cGMPが鍵化合物ですね。Guanylate Cyclaseを活性化させても勃起することになりそうですが。

C先生:そうだね。だから、PDE5が海綿体に主に分布するというのがポイントだ。

A君:さきほどありましたが、PDE5は網膜にもあるのでは?

C先生:うむ。実は、そこらへんの話を詳しくやると少しややこしいのだよ。PDEのアイソザイムに関して調べてもらえるかな。

Bさん:まず、PDEファミリーが1から11まであります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Phosphodiesterase

A君:分類ですが、アミノ酸配列/基質特異性/制御の特徴/薬理学的特徴/組織分布などの項目で分類されているようですが、ざっくり分かりやすいのが基質特異性でしょうか。PDEの基質にはcGMPとcAMPの2種類があるのですが、cGMPだけしか分解しないものが5,6,9のタイプ、cAMPだけが4,7,8、両方いけるのが、1,2,3,10,11です。

C先生:なるほど、実はPDE5もさらに細分化されるのだ。というのは、PDE5の組織分布に関して見てみると、PDE5A1からA4まで解説されている。
http://en.wikipedia.org/wiki/PDE5_drug_design

Bさん:ややこしいですね。PDE5A1はAが遺伝子を表し、1はスプライシングのされかたの違いで番号を振ってあるようですね。PDE5に関してはもとの遺伝子は一つと考えていいようですね(Aから始まってるはずなので、Bがなければ遺伝子は一つ)。

A君:PDE5A1とPDE5A2は脳/肺組織/心臓/肝臓/腎臓/膀胱/前立腺/尿道/陰茎(やっと出てきました)/子宮/骨格筋に分布しているようです。

C先生:あれ?海綿体と網膜に特異的に分布しているはずだが・・・続けてください。

A君:PDE5A3は量が少なく、平滑筋にのみ分布しています。平滑筋は心臓/膀胱/前立腺/尿道/陰茎/子宮にあるようですね。PDE5A4に関してはよくわかっていません。PDE5A5は血小板/胃腸の上皮細胞/小脳のプルキニェ細胞/陰茎と陰核の海綿体/膵臓/胎盤/結腸/膣の平滑筋と上皮に存在します。

C先生:なんか全然話が違うな。

Bさん:全体の量としてはやはり海綿体と網膜に多いのではないでしょうか。

C先生:なるほど。了解。作用機作に関しては理解が深まった。次回は、合成法を考えてみましょう。また打ちのめされるかもしれないが、頑張って。


Pyrethroidからその歴史振り返り(1)(2010/04/28)

C先生:はい、どうも。今日はピレスロイド再びということで、全てのピレスロイドに関して語ってみましょう。

A君:これまた相当膨大な話になりそうですが。

Bさん:散漫にならないように気をつけましょう。

C先生:Wikiによると第1世代と第2世代があるようだが。
http://en.wikipedia.org/wiki/Pyrethroid
(Wiki 「Pyrethroid」)
このサイトによると第4世代まであるのかな。
http://www.tec.org.au/safersolutions/a/184?task=view

とりあえず元祖のピレスリン。
Pyrethrin

Bさん:ピレスロイドの簡単な歴史が以下のサイトに掲載されていました。
http://www.chemuseum.com/professional/report/11/index.html
酸部、エステル部、アルコール部の3つの部分でそれぞれ発展してきたようですね。

A君:頑張って調べましたよ。世代というのは、構造はさておき、上市された年代と活性で区別されているようです。
http://ipmworld.umn.edu/chapters/ware.htm
上記サイトを継承すると、第1世代は、Allethrinのみですね。
1st Generation of Pyrethroid

そして、第2世代は5つあるようですね。まだ光に不安定な世代のようです。
2nd Generation of Pyrethroid

第3世代は光安定性を持った、初の農業用ピレスロイドです。
3rd Generation of Pyrethroid

第4世代は、第3世代以降のもの全てを総称するようですね。

C先生:世代の定義は人によって異なるようだね。第1世代と第2世代を合わせて第1世代としている人もいるようだし(Wiki)、Bayerの人もその系統の人のようで、我々の第3世代にCypermethrinとDeltamethrinを入れているね。ポジショントークも少し入っているのかもしれないが。
http://www.bayercropscience.com/bcsweb/cropprotection.nsf/id/EN_1stArticle022009/$file/2009_2_1_Housset.pdf
3rd Generation of Pyrethroid?

というところだ。まだまだあるんだが。Bさん、第4世代をピックアップしてください。

Bさん:了解です。アランさんのサイトからピックアップしました。
http://www.alanwood.net/pesticides/class_insecticides.htmlアルファベット順でいいでしょうか。
Acrinathrin

Acrinathrin:
Roussel Uclafというフランスの会社が発見したものです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Roussel_Uclaf
今はBayerが権利を持っているようですが、2002年よりCheminovaとBayerが協同で世界的に販売しているようです。
http://www.cheminova.com/en/cheminova/news__views/20061208_01.htm
どちらかというとPyrethrin IIの方に似ているのでしょうか。左側部にエステルが入っていますから。

C先生:エステルだけどもヘキサフルオロイソプロピルのエステルだね。加水分解とかはされないのかねぇ。

A君:次はBarthrinです。
Barthrin

結構古いタイプですね。年代的には第2世代ですが。USDAの研究員Barthelさんが見つけたもののようですね。
http://naldr.nal.usda.gov/NALWeb/Agricola_Link.asp?Accession=IND43861660
USDAのNational Agricultural Libraryに載っていました。1962年の文献です。
Busbey, Ruth L. “Organic Insecticides.” Yearbook United States Department Agriculture, 1962. 334-336.
アメリカは情報公開が凄いですね。今もかは分からないですが、昔はUSDAでは殺虫剤の探索研究をやっていたのですかね。

http://whqlibdoc.who.int/bulletin/1971/Vol44/Vol44-No1-2-3/bulletin_1971_44(1-2-3)_315-324.pdf
(Barther, W. F. & Alexander, B. H. (1958) J. Org. Chem., 23, 1012)
初のパブリッシュはJOCだったようですね。

http://whqlibdoc.who.int/bulletin/1971/Vol44/Vol44-No1-2-3/bulletin_1971_44(1-2-3)_349-352.pdf
 (Bull World Health Organ. 1971; 44(1-2-3): 349–352.)
少し引用してみます。
In retrospect, one can see several factors that have defeated the synthetic pyrethroids. The work of Barthel and his colleagues that produced barthrin and dimethrin was carried out in a government laboratory and the compounds were patented in such a way as to make them available to all without licence. The cost of marketing a compound today is so tremendous that no company can undertake the necessary toxicological work without patent protection. These compounds, although highly effective and of low toxicity for mammals, were “killed” by the US public-use patent. Dr. Elliott’s compounds is difficult to synthesize and commercial concerns may be reluctant to develop such a compound fully in view of the poor economic returns from other synthetic pyrethroids.

C先生:ふむ。Barthrinは結局上市されなかったのかな?政府の機関で見出されたが、public-useのパテントとして公開された故に、誰も手が出せなかったと読み取れるが。

Bさん:Barthelさんの発言のようですが、自分の見つけた化合物が良い性質だったのに、どの会社も開発してくれないから、うんぬんかんぬんのようですね。

ではお次、Bifenthrinです。エナンチオマーの混合物です。
Bifenthrin

http://en.wikipedia.org/wiki/Bifenthrin
Wikiによりますと、第4世代のピレスロイドです。FMCによって発見・開発されました。
http://www.homeguardptm.com.au/downloads/Pest%20Express%20Issue%2021.pdf
上記サイトによると、1982年に特許公開、1989年に圃場試験、1995年上市という感じですね。

A君:やっと日本発のピレスロイドに当たりました。
Butethrin

かなり情報量が少なかったのですが、開環タイプのアルコール部のハシリとなった化合物のようです。ベンゼン環を開環したデザインです。
http://books.google.co.jp/books?id=7aaeH5FCb0gC&pg=PA214&dq=pyrethroid+synthetic&lr=&as_brr=3&cd=17#v=onepage&q=butethrin&f=false
大正製薬の方が発見したようです。
http://ci.nii.ac.jp/els/110001756467.pdf?id=ART0001850826&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1272179439&cp=

http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/pdf/society/25-4006.pdf
リファレンスをたどったところ、以下の文献に辿り着きましたが。
http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=bbb1961&cdvol=35&noissue=6&startpage=968&lang=en&from=jnlabstract
Sota, K. et al. New synthetic pyrethroids. Agric. Biol. Chem. 1971, 35, 968.

Bさん:これまた情報量が少なかったです。
Cyclethrin

http://www.drugfuture.com/chemdata/Cyclethrin.html
http://www.ingentaconnect.com/content/esa/jee/1955/00000048/00000004/art00016
年代的にはBarthrinと同時代でしょうかね。

http://books.google.co.jp/books?id=fPiRSsUOpLEC&pg=PA28&dq=cyclethrin&as_brr=3&cd=5#v=onepage&q=cyclethrin&f=false
かなり初期の頃の剤のようです。

C先生:次は私だ。
Cycloprothrin

http://books.google.co.jp/books?id=wA2D8MM6afsC&pg=PA93&lpg=PA93&dq=cycloprothrin+discover&source=bl&ots=HEEgJ3PlwD&sig=Z09R6eFCEx0_DbsjK_Usl6LoqEU&hl=ja&ei=NR7US6rXDc2HkQXfqvyKDA&sa=X&oi=book_result&ct=result&resnum=1&ved=0CAYQ6AEwAA#v=onepage&q&f=false
DDTからヒントを得て見出したと書いてあるね。確か同じ作用性だったかね?
DDT
http://ja.wikipedia.org/wiki/DDT

Bさん:ピレスロイドは「Na+チャンネルを持続的に開くことにより脱分極を生じさせる神経毒」です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89
DDTは「神経軸索のNa+チャンネルに作用し、神経系の情報伝達を阻害する。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%BA%E8%99%AB%E5%89%A4
ということは同じ作用機作ということのようですね。

C先生:なるほど。DDTとピレスロイドは同じ作用機作で、構造活性相関にも類似性があり、それで精力的に似せた方向で探索を進めたようだね。

A君:CSIROの研究者が見つけたようですが、オーストラリアの研究所ですね。結構珍しいのではと思うのですが。
http://www.csiro.au/csiro/channel/_ca_dch2t.html
(CSIROはCommonwealth Scientific and Industrial Research Organisationの略)

Bさん:引用ですが、CSIROのホームページに書いてありました。
「In the agrichemical area, Cycloprothrin, developed at CSIRO, is the leading rice insecticide in Japan (Cyclosal™, Nippon Kayaku).」
http://www.csiro.au/science/Bioactive-Discovery.html

C先生:それでは、ここまでにしておきますか。しかし、相当な数の剤があるね。まぁ、ぼちぼちやっていきましょう。

Januviaからとりあえず右側だけ(2010/04/25)

C先生:はい、どうも。前々回はDPP-4阻害剤の懐の広さにびびってしまい、前回はSitagliptinの合成法の素晴らしさに涙目で、突然終わらせてしまった。今日は答え合わせということで、頑張ってみましょう。
http://www.columbia.edu/cu/chemistry/groups/synth-lit/MIR2009/2009_06_26-BKelly-Sitagliptin.pdf
Januvia

まずはじめに、パーツの分け方は間違っていなかったようだ。どうがっちゃんこするかは、まぁおいおい、ということで。

A君:では右側から参りましょうか

C先生:そうだな。では、どうぞ!

A君:以下のようになります。4ステップで収率28%ですので、平均1ステップの収率は、73%ということになりますね。
from Chloropyrazine

C先生:恥ずかしながら、全く思いつかないルートだった。最後に還元して、芳香族性をなくすというルートだものね。以前Favipiravirのルートを考えていた時に、ジケトピペラジンを芳香化して、ピラジンを合成するルートを考えてみたのだが、これは逆の発想だ。
pyrazine

Bさん:芳香族化の方がすんなりいってくれそうですが。

C先生:そうだね。もしかすると、かなりの高圧条件で水添しないといけないのかもしれないけどね。悔しいので敢えてケチをつけさせてもらいましょう。まず、最初のクロロピラジンとヒドラジンとの反応だが、生成物がまだ求核性を持っていると考えられるので、ダイマーが生成する可能性があるね。これは不可避だろう。
hydrazine

A君:ヒドラジンにクロロピラジンを滴下すればよいのでは?

Bさん:ヒドラジンと生成物のピラジンのヒドラジンでは、原料のヒドラジンの方が生成物のヒドラジンより求核力が強そうですが。ピラジンは結構ひっぱっていそうなので。

C先生:確かにそうだ。じゃ、次。こんなにうまいこと二個トリフルオロアセチルが入るのかな。とりあえず6個くらいバイプロが思いついた。一番ありそうなのが(*)だね。1個目がどこから入るかだけど、ピラジン環から一番離れたアミノ基からだろう。その後二個目はなかなか入りづらいのじゃないか?
trifluoroacetyl

A君:確かにそうですね。

Bさん:まぁ、どのみち次のステップで内側のトリフルオロアセチルは切れるので問題ないのでは?

C先生:そうだね。だとすると、このプロセスはまだまだ向上の余地ありなのかな。トリフルオロアセチル化でもトリフルオロアセチル源を半分しか使っていないし、二個入れておいて次で一つ切るとは、まだまだ無駄が多いな。とはいえ、最後はいいね。還元で脱芳香化で完成。しかも、これ書いてみて気付いたのだが、トリアゾール環が還元されることはあり得ないんだね。てっきりトリフルオロアセチルで引っ張っているから還元されにくくて選択性が出せていると思いきや、ピラジンをのこしたままトリアゾールを還元した構造式が書けない。
reduction

A君:我々は構造式でしか、色々と考えていませんが、実際に手を動かしていた方には、思いもよらない、苦労があったでしょうね。

C先生:そうだね。苦労した場所も意外なところかもしれないし。左側は次回でいいでしょう。お疲れさまでした。

Januviaからベータアミノ酸へ(2010/4/17)

C先生:どうもどうも。

A君:今日は何でしょうか?

C先生:先日はJanuviaをやったが、いきなり唐突に終わってしまったので、少々続きをやりましょう。

Bさん:かなりのショートカットでしたね。

C先生:超推定合成法でどうだろう。製造法ではないところが味噌だ。

A君:製造法だとかなりの調査になってしまって疲れますからね。

C先生:気を楽にしてやってみましょう。さて構造だが。
Sitagliptin

A君:造形美ですね。

C先生:それは私のセリフのはずだが。では順番に逆合成していきましょう。右回りでまずはBさんからどうぞ。

Bさん:一番簡単な部分を頂きました。まずはアミド結合を切りましょう。あとはフリーのアミノ基に保護基を入れましょう。
Retrosynthesis1

C先生:いきなり簡単だったね。ではA君、右側をお願いしましょう。

A君:これでどうでしょう。
Retrosynthesis2

C先生:おそらく合っていると思う。今のところはだが。含窒素ヘテロ環の逆合成は、大概窒素-炭素の二重結合を切っておけば間違いないかな。イミンの合成の環化バージョンだと考えれば分かりやすい。さらに付け加えると、N-N結合を切るのはあまり良くない。

A君:なぜでしょうか?

C先生:そもそも普通の有機合成でN-N結合を作る反応はあまりないだろう。C-C結合形成も難易度が高いが、多分ヘテロ原子−ヘテロ原子結合形成反応も難易度が高い。さらに言うと、今回の切り方の場合は原料の一つがヒドラジンになるし、試薬としても入手容易だから、まぁまぁ妥当な切り方だと思うよ。ピペラジンの窒素原子が一つフリーだが、まぁとりあえずは目をつぶりましょう。ではBさん続けて下さい。

Bさん:またまたアミドで切ってみました。一応保護基をかけてみたのですが。
Retrosynthesis3

C先生:とりあえずだから良いでしょう。まぁ、まずはアミド結合で切るのは鉄板だね。ではA君、続けて。

A君:なんか僕は難しいのばかり当たっているような気がするのですが・・・
Retrosynthesis4

C先生:GOOD!!多分いいでしょう。とうとう右側パーツは完成だね。お疲れ様。では左側だ。Bさんお願いします。

Bさん:βアミノ酸ですよね。難しいですね。しかも不斉点があります。全く自信がないのですが、とりあえずカルボニルのアルファ位の炭素とベータ位の炭素で切ってみました。
Retrosynthesis5

C先生:カルボニルの隣で切るのは鉄板だしね。アルファアミノ酸ならStrecker反応が使えるが。Bさんの切り方だと、酢エチのカルボニルのアルファ位を引き抜かないといけないし、大変そうだ。ベンジルのアルデヒドが原料になりそうだが、これは違う気がするな。と思ったが、大切な反応を思い出した。アセト酢酸エステルを使った合成法だ。アセチルはNaOEtなんかで焚いたら脱アセチル化するからね。「足して切る」というのはつい忘れがちだから思い出せてよかった。
Retrosynthesis6

A君は何かあるかい?

A君:ベータアミノ酸のスタンダードな合成法を知らないときつそうですがやってみましょう。あとでベータアミノ酸の合成法をネットで調べてみましょう。でも、とりあえず今の僕の実力で考えてみます。
Retrosynthesis7
これでどうでしょうか?アミノ基とカルボキシル基が分子内にあるのでそこで環化させてみました。なんとベータラクタムになります。ベータラクラムをさらに逆合成してみると、ベータ位にハロゲンの立ったアミドになりますね。

C先生:ふむ。ハロゲンを脱離させるとオレフィンになるな。オレフィンになるなら、WittigかHWEしか思いつかないな。が、しかし、WittigもHWEもプロセスでは使えないだろう。
Retrosynthesis8

Bさん:其の心は?

C先生:まず、WittigもHWEも今はやりのグリーンケミストリーの観点から考えると、非常に非エコな反応だ。特にトリフェニルホスフィンオキシドやジアルコキシホスホン酸が廃棄される運命だろう。トリフェニルホスフィンオキシドは除くのが面倒だ、有機層にも水層にも来るしね。Wittigは反応後に分子量が減ってしまう。あんまりやっていて嬉しいものじゃないよ。リン廃液は処理も大変だ。燃えないわ、海に流すと富栄養化で赤潮発生だし、色々と大変だ。残念ながらWittigもHWEもプロセスケミストリーの観点から考えるとまぁあり得ない選択肢だね。

A君:ハロゲンをアルコールに変えて考えてみました。先ほどのアセト酢酸エステルを用いてみました。あと酸化状態を上げてケトンにしてみましたが、どうでしょうか?
Retrosynthesis9

C先生:上はベンジルのアルデヒドか・・・あんまり見ないパーツだね。下は酸化状態を上げたということは後々還元工程が入るということであんまり良さそうなルートとは思えないが、フェニル酢酸が原料ならまぁ良いかもね。とにかくプロセスで酸化または還元を積極的にやるのはちょっとハードルが高いような気もするが。あと、アセト酢酸エステルにこだわらなくてもマロン酸エステルなんかも使えるかもね。脱炭酸すれば同じことだし。

Bさん:不斉点はどうしましょうか?

C先生:そうだね。そろそろ煮詰まってきたからベータアミノ酸の合成法でもしらべてみましょうか。そこに行く前に、今までのことをまとめると、
Retrosynthesis11
こうなる。右側のパーツはかなり自信ありだが、左側がなぁ。ベンジルイミンのルートも自信ないし、ベータラクタムのルートも曖昧だが、とりあえず調べてみましょう。Bさんお願いします。

Bさん:少し調べたところ、結構チャレンジングな分野のようですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Beta-peptide
(Wiki βアミノ酸)
さらにそこから飛びまして、Arndt-Eistert反応というものがあるようです。アルファアミノ酸のカルボン酸を一炭素増炭するという反応ですから、アルファアミノ酸が原料になるようです。ただ・・・ジアゾメタンを使うのであまり安心感がない反応ですかね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Arndt-Eistert_synthesis
あとはOrganic Chemistry Portalというサイトにβアミノ酸の合成法が色々と載っていました。
http://www.organic-chemistry.org/synthesis/C1C/nitrogen/beta-amino-acids.shtm

A君:いやはやネットの世界は凄いですね。コロンビア大学のLeighton研究室のグループミーティングの資料にβアミノ酸の合成法のレビューがありました。
http://www.columbia.edu/cu/chemistry/groups/leighton/gm/20070802-GTN-Asymmetric%20Synthesis%20of%20Beta%20Amino%20Acids.pdf

C先生:素晴らしい!非常にまとまったレビューだ。こりゃ凄い。

Bさん:書籍ですと、Wiley社からEnantioselective Synthesis of Beta-Amino Acids, 2nd Editionという本が出ているようです。当然のことでしょうが、GoogleBookから中味がある程度読めますね。
http://as.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-0471467383,descCd-tableOfContents.html
同じくWiley社からAmino Acids, Peptides and Proteins in Organic Chemistry: Volume 1 - Origins and Synthesis of Amino Acidsという本が出ていますね。
http://as.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-3527320962,descCd-tableOfContents.html


A君:なんか我々の作ったベータアミノ酸の逆合成が非常にプアなものに見えてきました。有機合成の世界は奥深いですね。勉強になりました。

C先生:A君の紹介してくれたレビューから抜粋すると、
(1)Arndt-Eistert反応が古典的な方法と考えていいのかな。とはいえ、色々と問題があるようで、汎用性の高い反応ではなさそうだ。

(2)エナミンの不斉還元がその次かな。エナミンはβケトエステルから容易に合成可能なようなので、良さそうだね。水素も安いし。
Retrosynthesis12

(3)アクリル酸・メタクリル酸へのマイケル付加がその次。ああ、なるほどその手があったかという感じだ。アミノ基を後から入れる方法だ。ついついN-Cで切るのを忘れていたね。
Retrosynthesis13

(4)次にシクロアディション(Diels-Alder)だが、これは環構造が入ったものに限るようだからスキップしよう。

(5)C-Hオキシデーションもスキップしましょう。スルファミデートを中間体にしているのは面白いね。

(6)スルフィンイミンへの求核付加だ。これはよくやられている反応な気がするな。スルフィンイミン部に不正補助基を入れて不斉誘起しているね。硫黄のキラリティを利用しているのだが、前もって硫黄にキラリティを入れておかないといけないことに注意だ。
Retrosynthesis14
スルフィンアミドは酸性条件で脱保護可能だね。でも、不斉補助基は回収できないな。不斉もなくなってしまうし。

(7)イソキオサゾリンを利用した合成法。これが一番使える合成法のようだ。実験室レベルでやるには一番いいのかな。全く思いつかなかった・・・概念的にはベータラクタムの逆合成ルートに近そうだが。多置換のものを作るのには良さそうだ。問題は、イソキサゾリンからβアミノ酸に持って行くところだが、[H]がLAHというところだね。プロセスでは使えなさそうだ。[O]はNaIO4(過ヨウ素酸ナトリウム)か、あまり使いたくない・・・激しく還元・激しく酸化。大体還元と酸化は反対の概念だし、効率が悪いね。
Retrosynthesis16

A君:全体を俯瞰しますと、やはり(2)か(3)あたりに落ち着きますかね。

C先生:そろそろ答え合わせに行きましょう。Sitagliptinの製造法だが、下記サイトにまとまったものがあった。Leighton研究室もコロンビア大学だったんだが、これもコロンビア大学だ。度肝を抜かれました。自信のあった右側部分も驚きの方法だった。詳しくは次回に回しましょう。それでは。
http://www.columbia.edu/cu/chemistry/groups/synth-lit/MIR2009/2009_06_26-BKelly-Sitagliptin.pdf

JanuviaからDPP-4へ(2010/04/04)

C先生:どうもこんにちは。今日もいい天気だね。

A君:昨日は風が強かったですね。

Bさん:中国から黄砂が飛んできていたみたいですね。

C先生:黄砂に吸着して中国の化学物質が大量に日本に輸入されてしまったのではないかと不安だね。

A君:閑話休題。今日は?

C先生:少し古い話だけど、ジャヌビアって知ってるかい?
Sitagliptin

Bさん:薬作り職人さんのブログで紹介されていたものでしょうか?
DPP4阻害剤(新規作用性)、Merck社が開発、糖尿病治療薬という情報が読み取れました。
http://kentapb.blog27.fc2.com/blog-entry-1801.html

C先生:ちなみに有機化学美術館でも紹介されている。
酵素阻害剤としては最後(?)のブロックバスター、売上高10億ドル以上(1$90円として9000億円・・・)
http://blog.livedoor.jp/route408/archives/2010-01.html#20100109

A君:ジャヌビアでググりますとまず万有製薬のプレスリリースが出てきました。
http://www.banyu.co.jp/content/corporate/newsroom/2009/product_news_1016.html
国内では10年振りの新規作用機序を持つ経口2型糖尿病治療薬とのことです。何やら凄そうな感じですね。2009年10月16日のプレスリリースなので、我々のブログは非常にノンタイムリーなものになりそうです・・・

C先生:まぁ、深めれば良い、良い。万有製薬のプレスリリースで大体の状況はつかめそうだ。分かりやすくまとまったプレスリリースだね。ちょっとBさんかいつまんでもらえるかな?

Bさん:はい。まず糖尿病ですが、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群と定義されています。糖尿病の病型はその成因から、1型糖尿病、2型糖尿病、それ以外の特定原因(遺伝子異常や他の疾患など)が明らかになったもの、妊娠糖尿病の4つに分類されます。糖尿病の90%ないしそれ以上を2型糖尿病が占めています。」

C先生:完全なるコピペだが(笑)インスリンが足らないのが原因だということか。2型糖尿病がターゲットのようだが、2型に関してA君お願い。

A君:2型糖尿病ですが、「遺伝的素因に加え、過食や運動不足などの生活習慣によって発生します。2型糖尿病にはインスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがあります。」

C先生:はいはい(笑)。生活習慣病なんだね。ちなみにプレスリリースではジャヌビアは現在用いられている既存の薬で十分な効果が得られない場合にのみ処方されるようだ。スルホニルウレア剤、チアゾリジン系薬剤、ビグアナイド系薬剤の3種類のようだが、それぞれ調べてもらえるかな。

A君:まずはスルホニルウレア剤に関して、日本語版だけですが、除草剤としても使用されているようです。(ブログに農薬もクレームしておいて良かったですね。)

Chlorsulfuron

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%9B%E3%83%8B%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%A2
http://en.wikipedia.org/wiki/Sulfonylurea
(Wiki「スルホニルウレア」と「Sulfonylurea」)

非常にいっぱいありました。
1st generation of sulfonylurea

2nd generation of sulfonylurea

3rd generation of sulfonylurea

Bさん:チアゾリジン系ですが、日本語版Wikiはありませんでした。
http://en.wikipedia.org/wiki/Thiazolidinedione

Thiazolidinedione

C先生:最後にビグアナイド系。どんな構造化と思ったらグアニジンが二つ縮合したような形だった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%89%E7%B3%BB
http://en.wikipedia.org/wiki/Biguanide

Biguanide

他にも沢山治療薬がありそうな感じだったんだが。この辺で。しかし、これだけあるのにまだまだ出そうな気配があるのは何か理由があるんだろうか。

Bさん:少し「ジャヌビア」と「利点」でググったところ、「食事摂取に関わらず一日一回の服用でOK」というところらしいです。今までは飲み忘れることが多かったとのことです。

A君:あとは「低血糖を起こしづらいようです」。作用機作的にということのようです。

C先生:なるほど。ジャヌビアはDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)阻害剤なんだが、他にもあるようだ。

DPP-4 inhibitors

A君:いっぱいありますね。

C先生:さらに開発候補剤を入れるともっとありそうだった。しかし、先入観かもしれないけど、Sitagliptinはなんか美しい形をしているような気がする。造形美というか。フッ素が沢山入っているせいかな。効きそうな形をしている。。。

Bさん:突然ですが本日はここまで。
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